砂栽培に興味を持たれた方、これを導入することで栽培スタイルがどのように変わるのか気になるところだと思います。
そこでこの記事では、5年以上の砂栽培によるリーフレタスの実績をもとに次のことを説明します。
(1)砂栽培でのリーフレタスの反収と運用コスト
(2)栽培方式の選び方(まとめ栽培かリレー栽培か)
(3)砂栽培のリーフレタスでの失敗事例
この記事を読めば、砂栽培導入後どのような栽培スタイルになるのかイメージできるようになります。
目次
1. 砂栽培の収入と支出を知る!リーフレタスの反収と運用コスト
この章では、砂栽培でのリーフレタスの反収と運用コストについて説明します。
農地一反(1,000㎡)に導入した場合を例に説明します。
条件は次のとおりです。
農地面積 : 一反(1,000㎡)
ハウス棟数 : 3棟
ハウス面積 : 3棟で840㎡ 1棟あたり280㎡(間口8m×奥行35m)
ベッド面積 : 3棟で500㎡ 1棟あたり166㎡(幅1.3m×長さ32m×4列)
※ハウスの間口が8mに対し、ベッド幅が1.3m、通路幅65cmでベッドを4列並べることができる
栽培作物 : リーフレタス
歩留率 : 70%
年回転数 : 8.6回転/年
植栽密度 : 14株/㎡
1株重量 : 150g/株
では、詳しく説明します。
1-1. 反収は年間6.3トン|42,000株が出荷できる
反収は6.3tです。
実に年間42,000株になります。
計算は次のとおりです。
【計算式】
(ベッド面積)×(平米あたりの株数)×(年間回転数)×(歩留まり)×(1株当たりの重さ)
500(㎡) × 14(株/㎡) × 8.6(回転/年) × 70(%) × 150(g/株) = 6,321,000(g) ≒ 6.3(t)
なお、単価については、売り先によって大きく異なります。
選択肢として、市場に出すか、直売所で売るか、あるいは契約価格での買取か、等があります。
したがって、売上金額の計算は、ご自身の販路に基づいて算出してください。
1-2. 人件費|農地一反なら目安として0.8人月程度で栽培できる
リーフレタスの場合、農地一反(1,000㎡)なら0.8人月で栽培できます。
リレー栽培(※)であれば、一日平均6時間程度の時間でできるわけです。
(※リレー栽培とは、ベッドごとに日をずらして順番に植えていく方式です。2章で解説しています。)
時間に余裕ができる理由は次のとおりです。
【砂栽培で時間に余裕ができる理由】
(1)栽培手順がシステム化されていて、作業に無駄がない
(2)環境を制御できているので、不測の事態が起こりにくい
(3)草刈りが不要
(1)作業に無駄がない
「播種」▶︎「育苗」▶︎「定植」▶︎「収穫」の一連の手順がシステム化されているので、作業に無駄がありません。
各工程の所要時間もはっきりしています。
そのため、効率の良い栽培計画をたてることができます。
(2)不測の事態が起こりにくい
ビニールハウス内の高設ベッドの為、自然災害などによる不測の事態が起こりにくいです。
鳥獣被害もありません。
病気なども露地栽培に比べてはるかに少ないです。
集中豪雨で辺りが水に浸かっても、作物への被害はありません。
そのため、不測の事態の復旧にとられる時間が少なくなります。
(3)草刈りが不要
ビニールハウス内は防草シートを張ります。
したがって、草刈は不要です。
露地栽培の場合、農地の草刈りに年間通して費やしている時間は計り知れません。
それが不要となるのです。
【農地コンシェルジュの実績】
農地コンシェルジュの実績では、二反(2,000㎡)でも農家さん一人とパートさん一人で栽培できます。
そのため専業でやるのであれば、二反以上を推奨します。
ただし、その中には配達時間は含まれていません。
1-3. 種代|月5,000粒で10,000円
種代は、月10,000円です。
計算は次のとおりです。
【計算式】
(ベッド面積)×(平米あたりの株数)×(年間回転数)×(単価)
500(㎡) × 14(株/㎡) × 8.6(回転/年) × 2(円/粒) ※= 120,400(円/年)
120,400円 / 12ヶ月 ≒ 10,000(円 /月)
※種は1粒2円
なお、種にも種類があり、季節によって使いわけます。
1-4. 液肥代|月10,000円
液肥代は月10,000円です。
液肥は20kg入りを月平均2本消費します。
単価は5,000円程度です。
肥料が多ければ良く育ちます。
ただし、やりすぎると肥料焼けします。
逆に極限まで減らして有機栽培を目指すこともできます。
ただし、成長は遅いです。
ちなみに農地コンシェルジュでは年間の回転数を重視していますので、1反当り月平均2本使います。
1-5. 水のコスト|井戸水なら0円!水道水なら月10,000~30,000円
井戸水を使っている限り、水代はかかりません。
井戸を掘るのにお金がかかっていたら、設備費とあわせて減価償却しましょう。
一方、水道水を使うと、かなりの価格となります。
夏場だと1,000㎥の貯水タンクが1日2回は空になるので、約2,000㎥/日消費します。
冬場はそれよりも少なくなります。
下水道料金もあわせてとられます。
あわせて月10,000~30,000円程度はかかるでしょう。
なお、井戸水の場合は不純物用のフィルターをつけ、定期交換も必要です。
金気が多く含まれているなら、さらに高性能のフィルターが必要です。
一方、水道水を使うならメンテフリーです。
とはいえ、コスト的には井戸水を使うのが現実的でしょう。
1-6. 電気代|月2,000~12,000円
電気代は、主に換気扇で消費し月2,000~12,000円です。
冬は、朝と夕に2時間ほど回す程度です。
夏は、朝の7時から夕方7時まで12時間回しっぱなしです。
夏の電気代を計算すると次のとおりです。
【計算式】
(換気扇の消費電力)×(台数)×(時間)×(日数)×(電気単価)
400(w)(0.4kw)× 3(台) × 12(時間) × 30(日) × 27(円/kwh)※=11,664≒12,000(円/月)
※電気単価は27円/kwh
冬の電気代は、この1/6程度です。
もし保管用の冷蔵庫が置く予定なら、その分の電気代も見込んでおきましょう。
1-7. ビニールの張り替え|数年に1度で500,000円(工事費込)
ビニールの張替えは数年に1度で、500,000円(工事費込)です。
ビニールにはたくさんの種類があるので、次の項目をもとに検討してください。
【ビニールを選ぶときの検討項目】
・価格
・透明性
・直射光or散乱光
・耐久性(経年劣化に対して)
・引き裂き強度(外的衝撃に対して)
・防塵性(ホコリ、ベタつき)
・紫外線カット
・保温性
安いビニールを毎年張り替えるか、高耐久の高いビニールを長く使うかは、考え方次第です。
なお、ビニールをとめるバンドも直射日光で経年劣化するので、張り替えの際にはあわせて交換しましょう。
2. 選べる栽培方式|「まとめ植え」と「リレー栽培」の違い
この章では、砂栽培の栽培方式について説明します。
栽培方式には、「まとめ植え」と「リレー栽培」があります。
それぞれメリット・デメリットがあります。
あなたの農業スタイルに合った栽培方法を選ぶのが正解です。
ちなみに農地コンシェルジュでは、コンスタントに毎日出荷できる「リレー栽培」を選んでいます。
この章を読めば、あなたに適した栽培方式を選ぶ検討材料が得られます。
2-1. 「まとめ植え」と「リレー栽培」の違い
「まとめ植え」とは、文字通りすべてのベッドに同時に植える方式です。
「リレー栽培」とは、ベッドごとに日をずらして順番に植えていく方式です。
どちらも必要な設備は同じで、自由に選択することができます。
途中で変更することもできます。
砂栽培はシステマチックな農業ですから、自由に栽培計画をたてることができるのです。
ただ途中で大掛かりな変更をすると、ベッドを遊ばせてしまう期間ができてしまいます。
できれば同じ方式を続ける方がよいでしょう。
このあと説明する「優先したいこと」や「メリットとデメリット」を参考にして、あなたにとってベストな方式で始めましょう。
2-2. 「まとめ植え」と「リレー栽培」の正しい選び方|優先したい基準で選ぶ
「まとめ植え」か「リレー栽培」かの選択は、何を優先したいかで決めましょう。
参考に優先したいことを一覧表にまとめました。
優先したいこと | まとめ植え | リレー栽培 |
---|---|---|
毎日コンスタントに定時で働きたい | × | ○ |
パートを雇って任せてたい | △ | ○ |
定植や収穫をまとめて一度に済ませたい | ○ | × |
市場に出荷したい | ○ | × |
配達コストを抑えたい | ○ | × |
スーパーやレストランなどにも出荷したい | △ | ○ |
急な注文も取りこぼしたくない | × | ○ |
他に栽培している作物の繁忙期とずらしたい | ○ | × |
あなたの優先したいことは何かを考えて、理想の栽培方式を決めましょう。
では次に、それぞれのメリットとデメリットを詳しく説明します。
2-3. 「まとめ植え」のメリットとデメリット
「まとめ植え」は、すべてのベッドで同時に植え、同じように生育し、同じタイミングで収穫する方式です。
「まとめ植え」のメリット
・定植や収穫がまとめてできるので、人手が十分にあるなら効率が良くなる
・出荷もまとめてするので、年間の総出荷コストが安くなる
・市場へ出荷する場合、回数が減る分手続きの手間が少なくて済む
・他に別の作物を育てている場合、互いの繁忙期をさけて栽培できる
・兼業農家でも、定植・収穫の時期さえ時間を確保すれば栽培できる
「まとめ植え」のデメリット
・収穫のある時と無い時とで、偏りができる
・コンスタントに入荷を希望するバイヤーには、販売できないときがある
・収穫時以外で急な注文がきても、対応できないときがある
・市場への出荷が中心となるが、市場の買取価格の変動で収益が不安定になる
・定植・収穫を一日に一人でできる量には限界がある
※一反モデルでは7,000株を同時に定植・収穫することになり、一人ではさばけない
2-4. 「リレー栽培」のメリットとデメリット
「リレー栽培」は、ベッドごとに日をずらして順番に定植・収穫を行う方式です。
「リレー栽培」のメリット
・毎日コンスタントに入荷を希望するバイヤーに、毎日新鮮な野菜を届けられる
・収益が毎日コンスタントにあがる
・自分一人でできる範囲で無理なく栽培できる
・作業量が毎日一定なので、パートを雇いやすい
・バイヤーからの急な注文にもある程度対応できる
「リレー栽培」のデメリット
・一日あたりの出荷量が少ないので、配達が必要な場合、年間の総運搬コストが高くつく
・一度に大量に注文してくるバイヤーには対応できない
2-5. 農地コンシェルジュが「リレー栽培」を選択した3つの理由
農地コンシェルジュが「リレー栽培」を選択した理由は次の3つです。
(1)販売計画をたてるのに、コンスタントに収益が上がる方がよい
(2)パートさんを雇うのに、毎日同じ時間に一定量の仕事がある方がよい
(3)スーパーやレストラン、直売所、百貨店などに積極的に販路を拡大するには、毎日出荷できる方がよい
リレー栽培の強みは、年間通して毎日出荷できることです。
これを武器にどんどん販路を拡大していってます。
市場の価格変動に左右されない攻めの農業を実践しているわけです。
3. 5つの失敗事例で学ぶ!砂栽培で効率よくリーフレタスを栽培する注意点
この章では、砂栽培を営農してきた中で遭遇した失敗事例を紹介します。
慣れないために発生した事例もあれば、避けられない事例もあります。
追加コストが発生した事例もあります。
あらかじめ知っておけば、同じ場面に遭遇した際、より良い対処方が見つかるでしょう。
3-1. 育苗の水やりに自動灌水はNG|手で万遍なく水やりするにも熟練が必要
育苗の水やりに灌水チューブでの自動灌水はできません。
固定されたホースからでは、すべての苗に万遍なく水が行き渡らないからです。
手でやるとしても、見た目よりけっこう難しいです。
育苗の水やりが難しい理由は次のとおりです。
【育苗の水やりが難しい理由】
・苗の間隔が2cmで、その一つ一つに漏れなく均等に水をかけるのは難しい
・育苗トレイはたわみやすく、真ん中に水が集まりやすい
・育苗トレイの周辺は風で乾燥しやすく、逆に中心部は湿気が残りやすい
安易に水をばら撒くだけだと、苗の生育にバラツキが出ます。
苗の生育が悪いと収穫にも影響します。
つまり「苗半作」という言葉通りです。
(※「苗半作」とは、作物全体の出来不出来は苗の仕上がりで半分以上決まるという意味です。)
できれば同じ人が生育状況をみながら水やりしましょう。
毎日水をやって育ち具合を注意深く観察していれば、熟練してきます。
3-2. ベッドに苔が生えた|手作業で取り去るよりバーナーで焼いて一発解決!
ベッドの上に苔が生えました。
程良い水と液肥が常にあるので、苔にとっても抜群の環境なのでしょう。
作物に直接の害は無いとはいえ、邪魔なので取り除きたいところです。
最初は手で取っていましたが、追いつきません。
竹ボウキでかいても完全には取れません。
そこでバーナーで焼きました。
熱消毒も兼ねて一石二鳥でした。
3-3. 井戸水に含まれる金気で灌水チューブが詰まる|チューブ交換とフィルター追加のコストを見込んでおく
金気で灌水チューブがダメージを受けました。
井戸水に含まれている金気が原因です。
地下水なのでやむを得ません。
そのためフィルターを追加しました。
追加コストの発生です。
メンテナンス費も発生することになります。
3-4. レタスが病気になった|砂に水をかけて洗って解決
作物が病気になったので、砂に水をかけて病原菌を洗い流しました。
過去に、レタスが病気になって腐る日が続く時期がありました。
そのため砂に水をかけて洗い流し、水を切って乾かしました。
その後、ビニールをかけて炎天下で熱消毒しました。
(炎天下消毒はイチゴ農家でよくやる方法です。)
その結果、それ以降病気は発生しなくなりました。
土壌改良剤などは一切使いませんでした。
3-5. 放ったらかしはダメ!|朝昼晩の定期的な見回りが大事
日々の業務に慣れてきたからといって、放ったらかしはいけません。
確かに、砂栽培は通常の露地栽培に比べはるかにシステマチックです。
ほとんどルーチンワークにできるなるので計画通りに進めることができます。
農業に不慣れなパートさんを雇っても、要所さえつかめば営農していけるのです。
とはいえ野菜は生き物です。
放ったらかしはダメです。
タイマー付き自動灌水装置や温度センサー付き換気扇があっても、完全ではありません。
生育環境には気を配りましょう。
確かに、日照りが続いても、地温は上がり過ぎません。
ゲリラ豪雨で辺りが浸水しても、作物に被害はありません。
台風がきても、ハウスが壊れない限り大丈夫です。
鳥獣被害もありません。
病気なども露地栽培に比べてはるかに少ないです。
つまり上手く育たなくても「天候や環境が悪いから」という言い訳は通用しないのです。
だからこそ失敗したら、原因はあなたにあります。
定期的に見回りをし、生育状況に気を配りましょう。
気になることがあれば、すぐに対応しましょう。
そうすれば計画通りの収穫が期待できることでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では次のことを説明しました。
(1)砂栽培でのリーフレタスの反収と運用コスト
(2)栽培方式の選び方(まとめ栽培かリレー栽培か)
(3)砂栽培のリーフレタスでの失敗事例
砂栽培の導入でどのような栽培スタイルになるのかイメージして頂けたかと思います。
砂栽培にご興味を持った方は、砂栽培の施設の見学をしてみませんか?
砂栽培設備の導入をご検討中の方は、記事の下にあるお申し込みフォームから、ぜひ私たち農地コンシェルジュの奈良県の現場をご見学ください。
きっと新しい農業スタイルが見つかることでしょう。
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