あなたは、農地転用の費用がどのくらいか目安がわからずお困りではありませんか?
また、経理をご担当の方は、会計処理(勘定科目)にお困りではないでしょうか?
農地転用は普段の生活に関わりがないものですので、わからなくて当然ですよね。
実は、農地転用の費用の相場や会計上の取扱は非常にシンプルです。
この記事では、私たち農地コンシェルジュが、今まで100件以上の農地転用手続きをしてきた経験をもとに、農地転用と費用の3つのポイントをご説明します。
(1)農地転用にかかる費用の相場とその内訳
(2)農地転用にかかる費用の会計処理(勘定科目)
(3)農地転用制度の概要
最後まで読めば農地転用にかかる費用についての概算がつかめるようになります。
さらに、農地転用の手続きについて全体像がわかるようになるので、専門家への依頼もスムーズになるでしょう。
ぜひ最後まで読んで、あなたの大切な農地の有効活用にお役立てください。
1. 農地転用にかかる費用の相場とその内訳
この章では、農地転用の費用の相場とその内訳をご説明します。
・「届出」と「許可」のそれぞれの場合にかかる費用の相場
・申請に必要な書類を揃えるための費用一覧
・一時転用費用の相場|ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)
この章を読むことで、農地転用にどういった費用が発生するのか、幾らぐらいかかるのかがわかります。
1-1. 農地転用費用の相場|「届出」は10万円未満、「許可」は10~20万円
農地転用の費用について、「届出」と「許可」で異なります。
(「届出」と「許可」の費用面での大きな差は、必要とされる添付書類の違いによるものです。
詳しくは「3-2. 農地転用の申請に必要な書類は「許可申請」と「届出」とで異なる」を参照ください。)
手続きを専門家に依頼する場合の発生する総額の目安は次の通りです。
申請の種類 | 費用総額の目安 |
---|---|
農地転用の【届出】
その土地が市街化区域「内」の場合は「届出」になる。 |
100,000円未満 |
農地転用の【許可】
市街化区域「外」(市街化調整区域等)の場合は「許可」になる。 |
100,000円~200,000円 |
農地転用の費用の内訳は、行政書士へ支払う代行手数料や、同意書・土地建物図面などの作成手数料等です。
続いて内訳の一覧をご紹介します。
1-2. 申請に必要な書類を揃えるのにかかる費用一覧
農地転用の申請に必要な添付書類は各農業委員会が細かく定めています。
ここでは主なものについての揃えるための費用を一覧にしました。
項目 | 金額の目安 | 書類の取得先・備考 |
---|---|---|
法人の登記事項証明書 | 1通あたり480円~600円 | 法人のみ必要 法務局で取得可能 (オンライン請求・窓口交付が最安) |
土地の登記事項証明書 | 1通あたり480円~600円 | 全部事項証明書に限る 法務局で取得可能 (オンライン請求・窓口交付が最安) |
都市計画図 | 200円~1,000円 | 各市町村役場で取得可能 |
公図・地籍測量図 | 450円 | 法務局で取得可能 |
設置を予定している建物や施設の図面 | 5,000円~50,000円 | 自分で作成することも可能 |
残高証明書 | 1通あたり700円~900円 | 銀行で取得可能 |
融資証明書 | 5,000円~10,000円 | 銀行で取得可能 |
土地改良区の意見書 | 1通あたり2,000円~5,000円 | 土地改良区にて(※) |
土地改良区域除外決済金 | 1平米あたり100円~500円 | 土地改良区にて(※) |
土地改良区手続き代行手数料 | 5,000円~30,000円 | 自分で行うことも可能 |
農地転用手続き代行手数料 | 30,000円~80,000円 | 自分で行うことも可能 |
その他各農業委員会が指定する書類 | ~200,000円 | 事業計画書、地籍図、土地利用計画図、全景写真、地権者の住民票など |
農地法は、実務面でローカルルールがとても多い法律です。
地域や農業委員会の担当者によって求められる書類や手続きが異なる場合があります。
その書類作成でも専門家に依頼する場合は費用が発生します。
必ず農業委員会に直接問い合わせて必要となる書類を確認し、漏れの無いようにしてください。
(※)土地改良区とは、土地改良事業をするための法人・公共組合です。
土地改良区のある地域にある農家は強制加入となります。
農地転用などで土地改良区からの除外を申請する場合は決済金が必要となります。
1-3. 一時転用費用の相場|ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の手続きをする場合、さらに追加の費用が発生します。
費用の目安は次の通りです。
項目 | 金額の目安 | 備考 |
---|---|---|
農業委員会手続き | 200,000円~300,000円 | 発電設備の設計図、近隣農家からの承諾の入手などが追加で必要 |
電力会社への手続き | 50,000円~800,000円 | 電柱に繋いでもらったり、発電した電気を売るための契約手続き |
設備認定手続き | ~100,000円 | 買取価格を固定価格にしてもらうための手続き |
農業委員会手続きの中には、「1-2. 申請に必要な書類を揃えるのにかかる費用一覧」で説明した以外に、「近隣農家からの承諾書の入手」があります。
これは大変手間のかかる手続きです。
農地転用費用以外にも、電力会社や経済産業省に対する手続き等、太陽光発電ならではの費用もかかります。
詳しくは次の記事を参考にしてください。
2. 農地転用の費用の取扱いで注意すべき4つのポイント
この章では、農地転用で発生する費用の扱い方についてご説明します。
農地転用は、一般的には行政書士に依頼することになり、数十万円になる場合もあります。
揉めたりしないよう、きちんと理解し整理しておきましょう。
2-1. 【費用負担】売却する場合の農地転用費用は誰が負担するべきか決めておく
農地を売却する場合は、農地転用費用を売主と買主のどちらが負担するかを事前に決めておきべきです。
なぜなら、農地転用の費用は10〜20万円前後またはそれ以上となり、大きな負担となるからです。
例えば、土地の売買金額が50万円で農地転用費用が20万円だった場合、土地の金額に対して農地転用費用が占める割合が大きくなります。
突然20万円の費用負担を求められると心理的な抵抗となり、契約が白紙になるケースもあります。
そのため、農地を売買するときには事前に行政書士さんから見積もりをもらい、売主と買主の双方が金額を認識したうえで土地の売買交渉をすることがおすすめです。
負担者 | 考えられる状況 | 備考 |
---|---|---|
買主が負担する場合 | 農地を活用したいので買いたい | 農地の時点での価格にて売買され、その後買主が農地転用する |
売主が負担する場合 | 農地を手放したいが、農地のままでは買い手が見つからない | 費用は売主が負担するが、その分売買価格に反映される |
なお、土地の売買では司法書士さんに支払う登記費用も発生します。
このように農地転用以外にも発生する費用がありますので、土地の売買に不慣れな方はご注意ください。
2-2. 【税金】売却する場合の農地転用費用のうち「譲渡費用」にできるのは「土地改良区域除外決済金」のみ
農地転用費用の中で「譲渡費用」として計上できるものは「土地改良区域除外決済金」のみです。
「譲渡費用」とは、農地を売るために直接かかった費用のことです。
会計上で「譲渡費用」を多く計上できれば、土地の売却で発生する税金が安くなります。
【計算式】
譲渡所得 = 売却価格 -( 取得価額(※1) + 譲渡費用 )
譲渡所得税 = 譲渡所得 × ( 所得税率 + 住民税率 )
具体例として、元々100万円で手に入れた農地を200万円で売却し、譲渡費用に20万円かかった場合を考えてみましょう。
そうすると、農地売却額200万円-(農地取得価額100万円+譲渡費用20万円)で「譲渡所得」は80万円になります。
「譲渡所得税」は、この「譲渡所得」は80万円に対して発生します。
これを先ほどの式に当てはめると次のようになります。
80万円×(15%+5%)( 15%(所得税) + 5%(住民税) )
結果として、「譲渡所得税」は16万円になります。
ただし、農地の保有期間は長期(5年超)で、特別控除などは考慮していません。
「転用」にかかった費用は、本来は売却とは関係のない費用です。
しかし、最高裁での判例で「土地改良区域除外決済金」のみが費用として認められています。
(※1)農地の取得価額が不明な場合
農地は先祖代々受け継いでいる場合など、取得価額が不明なケースがあります。
そうすると売却の際に譲渡所得が計算できません。
そこで「売却価格の5%相当額」を取得原価とすることができます。
(租税特別措置法第31条の4)
2-3. 【会計処理】農地転用後に売却した場合の会計処理(勘定科目)
農地転用後に売却した場合の、売主側の会計処理(勘定科目)は次のようになります。
分類 | 内容 | 会計処理(勘定科目) |
---|---|---|
農地転用関係 | 土地改良区域除外決済金 | 譲渡費用 |
農地転用の代行手数料 | 支払手数料等 | |
上記2つ以外で農地転用にかかった費用 | 支払経費等 | |
土地売買関係 | 売買仲介手数料 | 譲渡費用 |
売買印紙税(売主負担分) | 譲渡費用 |
「譲渡費用」という語句は、分類名称であって勘定科目名ではありません。
例えば「人件費」という言葉をよく使いますが、これも分類名称です。
会計処理上の勘定科目は「給与手当」「賞与」「福利厚生費」等になります。
「譲渡費用」についても、「支払手数料」や「租税公課」など実状に合った適切な勘定科目を選択してください。
2-4. 【代行手続きの注意点】農地転用の手続きを有償で代行できるのは行政書士のみ
農地転用の手続きを「報酬をもらって」代行できるのは行政書士だけです。
行政書士の資格も持たない人が報酬をもらって代行すると違法行為になります。
例えば、太陽光発電の設置で農地転用をする場合で考えてみましょう。
施工業者がサービスで手伝ってくれる分には問題ありません。
しかし、農地転用の費用を求めてきた場合は、行政書士への支払いなのか確認した方がよいでしょう。
このあたりを曖昧にする施工業者は遵法意識が薄いため要注意です。
3. 農地転用制度の概要
この章では、農地転用制度の概要をご説明します。
農地転用は誰でも自由にできるわけではなく、許可が必要です。
この章を読むことで、農地転用と農地区分の関係などが理解できます。
3-1. 農地転用とは農地を雑種地等に変更すること
「農地転用」とは、地目が「田」や「畑」の農地を目的別の観点から「雑種地」等に転用することをいいます。
具体的には、農地を宅地や工場等の建物、資材置場、駐車場、太陽光発電設備等の用地に変更することがあげられます。
「許可申請」ですので、審査を受けて許可されなければ転用できません。
ただ、市街化区域内の農地は、積極的に市街化を進めたいことから届出・受理されるだけで農地転用ができます。
農地転用の許可申請について詳しく知りたい方は、次のリンクを参照ください。
『はじめての農地転用の許可と届出|申請要件と審査基準を農地区分別に解説』
3-2. 農地転用の申請に必要な書類は「許可申請」と「届出」とで異なる
農地の場所が「市街化区域外」か「市街化区域内」かで、手続きの大まかな流れが次のように異なります。
農地の場所 | 手続きのおおまかな流れ |
---|---|
市街化区域外 (市街化調整区域等) |
【許可申請】 農業委員会が受理したのち、都道府県知事・指定市町村長が許可 |
市街化区域内 | 【届出】 農業委員会へ届けて受理されればOK(許可を得る必要はない) |
※ 市街化区域とは
市街化区域とは「すでに市街地としてできあがっている区域で約10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」です。
つまり、市街化区域内は積極的に市街化を進めたい地域です。
そのため、届出・受理されるだけで農地転用ができます。
申請書と添付書類をセットにして、転用しようとする農地のある市町村の農業委員会に提出します。
申請書は各市町村のホームページや農業委員会にて入手できます。
添付書類について、「許可申請」の場合の主なものは次の通りです。
(1)登記事項証明書、定款 (法人のみ)
(2)土地の地図と登記事項証明書 (全部事項証明書)
(3)土地に設置を予定している建物や施設の図面
(4)残高証明書、融資証明書 (資金力、信用力を示せるもの)
(5)農地転用に関係する地権者方々の同意書 (後から揉めることのないよう事前に同意を得ておく)
(6)土地改良区の意見書 (土地改良区域内の場合のみ)
(7)その他参考となる書類 (例えば、事業計画書、地籍図、土地利用計画図、全景写真など)
また「届出」の場合の添付書類の主なものは次の通りです。
(1)土地の地図と登記事項証明書 (全部事項証明書)
(2)賃借権が設定されている場合、解約できることを示せる書面
(3)開発許可(都市計画法第29条)が必要な場合、その許可を受けたことを示せる書面(5条申請のみ)
ただ、各農業委員会は必要に応じて他にも添付書類を定めています。
必ず直接問い合わせて必要となる書類を確認してください。
農地転用の手続きの流れと申請に必要な書類について詳しく知りたい方は、次のリンクを参照ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では次のことをご説明しました。
(1)農地転用にかかる費用の相場とその内訳
(2)農地転用にかかる費用の会計処理(勘定科目)
(3)農地転用制度の概要
これらをきちんとおさえることで、農地転用にかかる費用の概算がつかめるようになります。
さらに、農地転用の手続きについて全体像がわかるので、専門家への依頼もスムーズにできます。
この記事を通じて、あなたの大切な農地を有効活用する手助けになれば幸いです。