ビニールハウスを建てようとご検討中のあなたは、どのような構造が適切かわからずお困りではありませんか?
ビニールハウスを建てる時のお悩みは主に次の2つになることが多いようです。
・台風や大雪などの災害にも負けない構造にしたい
・初期投資はなるべく抑えたい
確かに、せっかく作ったビニールハウスが、貧弱な構造が原因で台風や大雪で壊れてしまっては、「修繕費用」や「休業による逸失利益」で困りますよね。
かといって、ビニールハウス業者の言いなりで過剰なスペックの構造にしてしまうと、無駄な「初期費用」が発生してしまいます。
もしも、「あなたにとって適切なビニールハウスの構造はどれくらいのものか」がわかれば良いと思いませんか?
この記事では、そんなあなたのために、ビニールハウスの構造に関する6つのことをわかりやすく解説しています。
(1)ビニールハウスの基本構造
(2)ビニールハウスの構造を理解するにあたって知っておきたい各部の名称
(3)ビニールハウスの構造計算の必要性
(4)積雪や台風に関する用語と知識
(5)各地域の最大瞬間風速、最大積雪深の調べ方
(6)積雪や台風に耐えられるアーチパイプの直径と厚みの関係
最後まで読んでいただければ、ビニールハウスの構造の知識不足が原因となるお金の損失を大きく減らすことができるでしょう。
また、業者の見積りの妥当性がわかるようになり、根拠のある質問をすることができるようになるはずです。
ぜひ、最後までお付き合いください。
1. ビニールハウスの構造はいたってシンプル
この章では、ビニールハウスの基本構造と主要部の名称をご説明します。
あわせてパイプの太さと強度との関係をご説明します。
この章を読むことで、見積りの基本的なことがわかるようになります。
またハウスを建てる地域の積雪や台風を考慮した構造になっているか確認できるようになります。
1-1. ビニールハウスの基本構造
ビニールハウスの基本構造はいたってシンプルです。
大きくは側面、妻面(扉含む)、ビニールで構成されます。
積雪など上部からかかる力に対しては、アーチパイプで支えます。
強風などの横からの力に対しては、側面を縦方向に走る母屋パイプ等で支えます。
それぞれのパイプは金具で連結され、相互に補完して強度を維持しています。
扉や換気扇などはすべて妻面につけます。
側面には風を通すための巻き上げ機以外はほとんど何もつけません。
1-2. ビニールハウスの主要部の名称
ビニールハウスの基本構造を考えるにあたっては、少なくとも次の名称は覚えておきましょう。
これがわからないと業者との打ち合わせがスムーズに進みません。
【ビニールハウスの主要部の名称】
側面 : アーチパイプと直線パイプを組み合わせて構成される面
妻面 : 直線パイプで構成され、扉や換気扇などを設置する面
間口 : ビニールハウスの幅
奥行 : ビニールハウスの長さ
棟高 : ビニールハウスの頂上の高さ
軒高 : 側面の直線パイプの高さ
アーチパイプ : 側面の上部を構成する2本1組のパイプ
母屋パイプ : 天井部を端から端まで支えるパイプ
妻柱 : 妻面を縦で支えるパイプ
妻梁 : 妻面を横に支えるパイプ
側梁 : 側面を縦に端から端まで支えるパイプ
1-3.【参考】パイプの太さや本数とサンプル図面
例えば次のような規模のビニールハウスであれば、上図のようにパイプが配置されます。
【参考例】
間口 : 5.4m
軒高 : 1.8m
奥行 : 25 m
棟数 : 3連棟
ピッチ: 0.5m
アーチパイプは2本一組で、それを0.5mピッチで配置すると、306本になります。
2. ビニールハウスの構造計算と価格の関係を知ってムダな出費を防ぐ方法
この章では、ビニールハウスの構造計算と価格の関係をご説明します。
構造計算によって、アーチパイプの太さや厚み、ピッチ(パイプ配置間隔)の関係が決まります。
これにより、ビニールハウスを建てようとする地域における必要なスペックの見当がつけられます。
この章を読むことで、入手した見積りが過剰スペックかどうかがわかり、ムダな初期投資を防げるようになります。
2-1. 構造計算の必要性を知ることで、過剰スペックかどうか判断できるようになる
なぜ構造計算の必要性を知る必要性があるかというと、それは過剰スペックによる割高な買い物を防ぐためです。
農林水産省HPも、農業用ハウス業界について次のように書いています。
(1)強度や仕様はメーカー任せでオーバースペックを助長している
(2)施工費が高い
このように割高な買い物になることを防ぐためには、消費者側も正しい知識を持つ必要があります。
業者の見積りを鵜呑みにしたり、すべてお任せにしたりするのはお勧めしません。
少なくとも適切な構造になっているかどうかは、判断できるようになりましょう。
2-2. 適切な構造とは、風と雪に耐えられる必要十分な強度を備えていること
では適切な構造は何かというと、次の通りです。
適切な構造 = 「風(最大瞬間風速)」と「雪(最大積雪深)」に耐えられる必要十分な強度を備えていること
なぜ風と雪に耐えられる強度が必要かというと、それは風や雪で倒壊さえしなければ「ビニールハウスはいつまでも使える」からです。
ビニールハウスはパイプとビニールのシンプルな構造です。
パイプは、多少錆びても農業には支障ありません。
ビニールは、張り替えれば新品になります。
つまり、ビニールハウスは倒壊さえしなければ、基本性能を保ったまま長く使うことができるのです。
それ故、倒壊をもたらす風と雪の対策が最も重要といえるのです。
2-3. 構造計算に用いる風と雪の具体的な数値は、「最大瞬間風速」と「最大積雪深」の2つ
構造計算において風と雪の具体的な数値は、「最大瞬間風速」と「最大積雪深」を用います。
それぞれ詳しく説明します。
「最大瞬間風速」~風に関する語句の説明
風に関して知っておきたい語句は次の4つです。
【風に関して知っておきたい4つの語句】
瞬間風速 : 瞬間的な風の速さ
最大瞬間風速 : 瞬間風速の最大値
平均風速 : 10分間の平均の風の速さ
最大風速 : 平均風速の最大値
※ちなみに「瞬間最大風速」という言葉は誤りです。
天気予報で風速25 mといわれている場合、それは「平均」風速をさします。
一般に「瞬間」風速は、「平均」風速の1.5~2倍ほどあります。
したがって想定される「瞬間」風速は、50 m近くになる恐れがあります。
ビニールハウスの構造計算では、この「瞬間」風速の最大値である「最大瞬間」風速を用いて計算されています。
「最大積雪深」~雪に関する語句の説明
雪に関して知っておきたい語句は次の2つです。
【雪に関して知っておきたい2つの語句】
積雪深 : 雪が降って自然に積もったときの地面からの厚さ
最大積雪深 : 年間を通じて積雪深が最も深かったときの数値
2-4. 最大瞬間風速、最大積雪深の「再現期間(年)」も考慮する
【重要】最大瞬間風速や最大積雪深を考える際は「再現期間(年)」も考えましょう!
「再現期間」とは
「再現期間」とは、その数値の積雪や風速などが再び起こるまでの期間をいいます。
例えば、ニュースなどでよく「50年に一度の台風」などといいますが、これは同じくらいの規模の台風が平均して50年ごとにやってくるということです。
つまり「再現期間50年」です。
なぜ「再現期間」が大切なのか
なぜ「再現期間」を考慮することが大切かというと、人によってビニールハウスを使う期間が異なるからです。
具体例をあげて考えてみましょう。
【具体例❶】あなたが若い新規就農者の場合
あなたが若い新規就農者で、これからビニールハウスを建てて頑張っていこうと考えているとします。
年齢的に70歳ぐらいまでは元気に農業できるとすると、40年以上あります。
そうすると、台風を想定するのに「再現期間」が10年程度では心もとないでしょう。
先にも説明した通り、ビニールハウスは倒壊さえしなければいつまでも使い続けることができます。
初めて建てたビニールハウスは、あなたの成長とともにいつまでも健在であって欲しいものです。
【具体例❷】あなたが定年後にのんびり農業をやろうと考えている場合
一方、あなたが定年後にのんびり農業をやろうと考えて、ビニールハウスを建てようとしている場合はどうでしょう。
何十年に一度あるかないかの天災は見込まなくてもよいかもしれません。
このように、人によって求めるスペックは異なってきます。
これを一律にしてしまうと、「過剰」スペック、あるいは「過少」スペックになるおそれがあります。
見積りを取る際には、将来的なことも業者に伝えましょう。
「園芸用ハウスの設計条件(積雪深・風速)に係る付表」(日本施設園芸協会HPより)
「再現期間」ごとの最大瞬間風速や最大積雪深の地域別数値は、一般社団法人日本施設園芸協会HPから提供されています。
地域ごとに細かく算出されていますので、こちらを参考にするのが良いでしょう。
詳しくは次の『園芸用ハウスの設計条件(積雪深・風速)に係る付表』 を参照ください。
2-5. 過去の最大瞬間風速、最大積雪深を自分で調べる5つの手順
参考に、各地域の最大瞬間風速や最大積雪深を自分で調べる方法をご紹介します。
具体的には気象庁HP「過去の気象データ検索」を使用します。
おおまかな手順は次のとおりです。
(1)「都府県・地域を選択」をクリック
(2) ご希望の都道府県をクリック
(3) 市町村をクリック
(4)「地点ごとの観測史上1~10位の値」をクリック
(5)「日最大瞬間風速・風向」と「月最深積雪」を見る
では、順を追って説明します。
(1)「都府県・地域を選択」をクリック
(2)ご希望の都道府県をクリック
(3)市町村をクリック
(4)「地点ごとの観測史上1~10位の値」をクリック
(5)「日最大瞬間風速・風向」と「月最深積雪」をみる
過去の最大瞬間風速を調べたい場合は、「日最大瞬間風速・風向(m/s)」をみます。
過去の最大積雪深を調べたい場合は、「月最深積雪(cm)」をみます。
参考に、農地コンシェルジュのある奈良県奈良市のデータをみてみましょう。
最大瞬間風速の観測史上最大記録は、47.2m/s(南風)です。
1979年9月30日に観測されました。
40年前のことです。
記憶に新しいものとしては、2018年9月の37.4m/s(南風)です。
この時たくさんのビニールハウスが倒壊しました。
積雪に関しては、1990年2月の21cmが観測史上の最大記録です。
ちなみに奈良市は豪雪地帯ではありません。
それでも積雪で倒壊したハウスもありますので、最大積雪深も考慮する必要があります。
ぜひ一度、お住まいの地域のデータを調べてみてください。
40年前に47.2m/sの台風が観測されたからといって、そのまま「再現期間40年」とはなりません。
「再現期間」の計算は、観測開始以降の大小含めたたくさんの観測記録から、統計的な計算手法を用いて算出されます。
決してグラフの極大値の山と山との間隔を測った単純なものではありません。
今回ご紹介した調べ方は、あくまで参考情報としてください。
2-6. 風と雪に耐えられる強度は、アーチパイプの太さ・厚み、ピッチ(間隔)の関係が重要
風と雪に耐えられる強度かどうかは、アーチパイプの太さ・厚み、ピッチ(パイプの間隔)の関係でほぼ決まります。
この関係については、日本施設園芸協会からデータが出されています。
日本施設園芸協会HP|園芸用ハウスを導入する際の手引き
参考例を、次にご紹介します。
【最大瞬間風速とアーチパイプの直径・厚みとの関係】
ピッチ : 0.5mのとき
最大瞬間風速 | アーチパイプの直径 | パイプの厚み |
---|---|---|
~29m/s | Φ22.2mm | 1.2mm |
~33m/s | Φ25.4mm | 1.2mm |
~46m/s | Φ31.8mm | 1.6mm |
【最大積雪深とアーチパイプの直径・厚みとの関係】
ピッチ : 0.5mのとき
最大積雪深 | アーチパイプ直径 | パイプの厚み |
---|---|---|
~9cm | Φ22.2mm | 1.2mm |
~14cm | Φ25.4mm | 1.2mm |
~36cm | Φ31.8mm | 1.6mm |
~52cm | Φ31.8mm | 1.6mm(※) |
※軒と棟との間に補強のパイプ(タイバー)をいれた場合の数値
このように考慮すべき最大瞬間風速と最大積雪深がわかれば、アーチパイプの太さ・厚みとピッチがわかります。
これをもとに、見積りに載っているパイプの仕様と比べてみましょう。
過剰スペックあるいは過少スペックになっていないか、目安をつけることができます。
確かにパイプの直径を太めにしておいた方が安心ではあります。
しかし、コストが問題です。
先にご説明したように3連棟で奥行25mのビニールハウスで300本程度のアーチパイプを使います。
1本あたりの価格差はわずかでも、本数が多くなると相当なコストアップにつながります。
必要十分なスペックとなるよう、業者とよく話し合って進めていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では次のことを説明しました。
(1)ビニールハウスの基本構造
(2)ビニールハウスの構造を理解するにあたって知っておきたい各部の名称
(3)ビニールハウスの構造計算の必要性
(4)積雪や台風に関する用語と知識
(5)各地域の最大瞬間風速、最大積雪深の調べ方
(6)積雪や台風に耐えられるアーチパイプの直径と厚みの関係
この内容を理解することで、ビニールハウスの基本構造がわかるようになります。
また業者の見積りが、ハウスを建てる地域の台風や積雪を考慮した構造になっているか確認できるようになります。
そしてオーバースペックで割高に感じる場合は、業者に根拠をもって質問できるようになります。
この記事があなたの理想のビニールハウスを建てるお役に立てれば幸いです。
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