農地の売買や賃借をお考えのあなたは、そのもととなる農地法第3条を理解しようとされているのではありませんか。
農地を正しく売買・賃借するには、その根拠条文を読むのが一番近道では?とお考えになるかもしれません。
しかし、農地法は農地独特の考え方があるので、読み解くのも一苦労です。
そこでこの記事では農地法第3条について、次のことをわかりやすく説明します。
(1)農地法第3条の全体像
(2)農地法第3条の申請の対象となるもの、ならないもの
(3)申請許可を得るための要件
(4)農地法改正による農地利用の規制緩和
この記事を読むことで農地法第3条のポイントが理解できるようになります。
目次
1. 3分でわかる農地法第3条の全体像|重要な3つのポイント
この章で、まず農地法第3条の大枠をとらえてください。
何が書かれているのか、どういったことを定めているのか、その概要をご理解頂けると思います。
農地法第3条は主に次のことを定めています。
(1)農地の権利移動には農業委員会の許可が必要であること
(2)農地の権利移動の対象となる行為と対象外の行為があること
(3)申請許可を得るために満たすべき要件があること
次に詳しく説明します。
1-1. 農地の権利移動には農業委員会の許可が必要
農地法第3条によると、「農地の権利移動には農業委員会の許可が必要」と定められています。
これが大前提になります。
これをもとにした上で、具体的な規定や例外事項が定められています。
次に「農地の権利移動」については、許可「対象」となる場合と、許可「対象外」となる場合があります。
「対象」となる権利移動には、農地の売買(売る買う)、賃借(貸す借りる)、競売などがあります。
競売で入札する場合でも、事前に農業委員会に書類(※)を申請し、証明書を発行してもらう必要があります。
(※)農地法第3条に係る『買受適格証明願』
「対象外」となる権利移動には、相続や法人の合併などで農地を取得した場合などがあります。
この場合は、農業委員会の許可を得る必要はありませんが、届出が必要な場合があります。
詳しくは次項を参照ください。
1-2. 相続等で取得した場合は届出が必要だが、許可申請は不要
相続等で農地を取得した場合は、届出が必要ですが、許可申請は不要です。
具体的には、下記の場合で許可を受けることなく取得した場合があてはまります。
【許可申請が不要な例】
・相続
・法人の合併・分割
・時効により取得
権利の取得を知った日から約10ヶ月以内に、農業委員会に届出なければなりません。
なお、届出だけで完了ですので、審査などはありません。
「許可」と「届出」の違いを簡単に説明します。
「許可」・・・必要事項を記載した書類を提出し、審査をうけて通ればOKになる
「届出」・・・必要事項を記載した書類を提出するだけでOKになる
1-3. 農地法第3条、4条、5条の違い
農地法第3条、4条、5条の違いを簡単に整理すると下記になります。
内容 | 具体例 |
---|---|
3条:農地の権利移動 | 売買、賃借、競売など |
4条:農地転用 | 地目を宅地などに変更する |
5条:農地の権利移動 + 農地転用 | 売買・賃借等と同時に、地目を宅地などに変更する |
なお、農地法第4条および第5条に基づく「農地転用」について詳しく知りたい方は下記の記事を参照ください。
2. 農地法第3条の許可を得るために必要な5つの基本要件
この章では、農地法第3条の許可を得るために必要な5つの基本要件を説明します。
基本要件については、農地法第3条第2項各号で規定されています。
(1)全部効率利用要件(2項1号)
(2)農地所有適格法人要件(2項2号)(法人の場合のみ)
(3)農作業常時従事要件(2項4号)
(4)下限面積要件(2項5号)
(5)地域との調和要件(2項7号)
これらをすべて満たす必要があります。
※ただし(2)は法人の場合のみです。
次に詳しく説明します。
2-1. 全部効率利用要件|農地の全部を使って効率よく耕作すること
全部効率利用要件とは、農地の全部を使って効率的に耕作することです。
農地を耕作するに十分な労働力が確保されているか、技術があるかが問われます。
もし労働力が足りない場合は、十分な能力のある機械が確保できているかが判断基準になります。
2-2. 農地所有適格法人要件|法人の場合は「農地所有適格法人」であること
農地所有適格法人要件とは、法人の場合は「農地所有適格法人」以外認められません。
つまり基本要件に従うと「農地所有適格法人」以外の法人は農地の権利を取得できません。
この「農地所有適格法人」について詳しく知りたい方は下記を参照ください。
しかし、平成21年の農地法改正で規制緩和がなされ、一般法人にも選択肢がひろがりました。
詳しくは、「3. 平成21年の農地法改正|規制緩和で農地を利用しやすくなった」を参照ください。
2-3. 農作業常時従事要件|耕作などの農作業を常時従事すること
農作業常時従事要件とは、耕作などの農作業に「常時」従事することです。
「常時」とは、年間日数が150日以上をいいます。
150日未満の場合でも、農作業を行う必要がある限り、その農作業に従事していれば「常時従事」していると認められます。
なお、この農作業常時従事要件は、必ずしも農地の権利者本人だけで満たす必要はありません。
住居及び生計を同じにする親族等が満たせばよいこととなっています。(農地法第2条2項)
つまり、病気やけがで農作業が十分にできなくなったとしても、家族で助け合えば要件を満たすことができるということです。
2-4. 下限面積要件|農地面積が5,000㎡(50a)(北海道では20,000㎡(2ha))以上であること
下限面積要件とは、農地を取得する者が耕作する農地の面積が5,000㎡(50a)(北海道では20,000㎡(2ha))以上でなければならないということです。
参考に、㎡、反、a(アール)、ha(ヘクタール)、坪の関係は次のとおりです。
㎡ | 反 | アール | ヘクタール | 坪 |
100㎡ | 0.1反 | 1a | 0.01ha | 30坪 |
1,000㎡ | 1反 | 10a | 0.1ha | 300坪 |
10,000㎡ | 10反 | 100a | 1ha | 3,000坪 |
農地権利者だけでなく世帯全体で満たせばOKです。
既に耕作している農地がある場合、その農地と新たに権利取得する農地の合計で判断されます。
なお、地域の農業委員会が「別段の面積」を設定している場合は、それが下限面積となります。
例えば、奈良市のように下限面積が3,000㎡の市町村もあります。
まずは、地元の地域の農業委員会に問い合わせてみましょう。
奈良市HP|お知らせ ●農地の権利取得にあたっての下限面積が緩和されます
地域によって「別段の面積」が設定される理由としては、次のようなケースがあります。
・その地域で新規就農者を増やしたい場合
・山間地などで農業の平均規模が小さく、面積要件を満たすのが困難な地域の場合
新規就農者を増やしたいと考えている地域ほど、緩和されている可能性があります。
ぜひ、積極的に農業委員会に問い合わせてみてください。
2-5. 地域との調和要件|地域の農業への取り組みに対し協力的であること
地域との調和要件とは、農地の集団化や農作業の効率化の取り組み対し協力的であることです。
つまり、地域の活動に支障が生じるような場合は、許可が下りにくくなるということです。
例えば、支障を生じるケースとしては下記があげられます。
【農地の集団化や農作業の効率化の取り組みに支障が生じるケース】
・農業の集団化を進めている地域で、農地の権利移動がその利用を分断してしまう場合
・農業者が協力して水利管理をしている地域で、水利調整を無視するような農業を行う場合
・無農薬栽培をしている地域で、それを事実上困難にするような場合
このような事態を引き起こすと判断されたある場合、審査がとおりにくくなります。
3. 一般法人でも農地利用OK|農地法改正の規制緩和で農業参入しやすくなった
実は、一般法人でも農地を利用することが可能です。
なぜなら、農地法改正(平成21年)により、「農地の権利移動」の規制が緩和されたためです。
そのため、賃借に限り要件を満たせば「農地所有適格法人」以外の一般法人も農地の利用が可能になりました。
その要件をまとめたものがこちらです。
【従来の要件】
(1)全部効率利用要件(2項1号)
(2)農地所有適格法人要件(2項2号)(法人の場合のみ)
(3)農作業常時従事要件(2項4号)
(4)下限面積要件(2項5号)
(5)地域との調和要件(2項7号)
【規制緩和後でも必要となる要件】
(1)全部効率利用要件(2項1号)
(4)下限面積要件(2項5号)
(5)地域との調和要件(2項7号)
さらに、次の3つの要件を満たす必要があります。
(6)農地を正しく利用しなければ契約を解除できる旨が、契約書に盛り込まれていること
(7)地域活動の役割分担を担いつつ、農業を継続的・安定的にできると見込まれること
(8)法人の役員が常時農業に従事していること
次に詳しく説明します。
3-1. 規制緩和で認められたのは賃借の場合のみ
規制緩和で認められたのは賃借の場合のみです。
農地を購入したい場合は、今までと変わらず「農地所有適格法人」の要件を満たす必要があります。
なお、「農地所有適格法人」について詳しく知りたい方は下記を参照ください。
3-2. 契約書に契約解除条件が盛り込まれていること
契約書に契約解除条件が盛り込まれている必要があります。
つまり、農地を正しく利用していないようであれば、貸主は契約を解除することができます。
これにより、一般企業が農地を借りた後に契約を無視して、農業以外のことに使うのを防ぐことができます。
なお契約解除条件は、口頭だけではなく、契約書に記載されている必要があります。
3-3. 地域活動の役割分担を担いつつ、継続的・安定的に農業ができると見込まれること
地域の様々な活動や集会に参加し役割分担を担いつつ、継続的・安定的に農業ができることが見込まれることが要件となります。
賃借といえども所有主と同様に、地域の農業に対して責任をもって協力し合うよう求められています。
例えば次のようなことがあげられます。
・水利組合などで地域の草刈りに参加
・地域農業の活性化のための活動に参加
・鳥獣被害対策を地域をあげて実施している活動に参加
一般企業であっても、地元の農家さんと同等に地域活動に参加しなければなりません。
そういった役割分担を担いつつ、継続的・安定的に農業ができるような体制になっていることが求められています。
3-4. 法人の役員が常時農業に従事していること
法人の場合、業務を執行する役員のうち1人以上が常時従事していることが、要件になります。
常時従事の内容については、農作業だけでなく、営農計画の作成やマーケティングも認められています。
【これまで一般企業が多角化で農業参入するのが難しかった理由】
一般企業が多角化で農業に参入したいなら、「農地所有適格法人」になってしまえばいいのではとお考えになるかもしれません。
しかし、その要件を満たすのはなかなか難しいのです。
なぜなら「農地所有適格法人」は、売上の過半を農業関連で占めないといけないからです。
多角化の一環で農業に参入する場合、本業を超える売上げを農業で稼ぐのは難しいでしょう。
それ故「農地所有適格法人」の要件を満たせないことから、一般企業が農業参入するのが難しかったのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では、次のことを説明しました。
(1)農地法第3条の全体像
(2)農地法第3条の申請の対象となるもの、ならないもの
(3)申請許可を得るための要件
(4)農地法改正による農地利用の規制緩和
特に、平成21年度の農地法改正により「農地所有適格法人」以外の一般法人でも一定の要件を満たせば農地を利用できるようになりました。
これにより一般企業の農業参入への機会がひろがりました。
一般企業の資本力で農地が有効活用されることが期待されています。
農業人口が減少の一途を辿る中、耕作放棄地が増えることが懸念されています。
そのため、今後も農地に関する規制緩和が行われていくことでしょう。
ぜひ農地法を正しく理解して、農地を正しく有効活用して頂けたら幸いです。