「稲刈り」は日本全国で見かける光景ですよね。
しかし、具体的にどんな作業工程があるかと問われるとすぐに思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。
実は、稲刈りは多くの工程にわかれています。
美味しい新鮮なお米を食卓に届けるためには、多くの工程を1〜2日間で一気にやってしまわないといけないのです。
そこでこの記事では次のことを説明します。
(1)稲刈りの大まかな流れ
(2)稲刈りの前に必要な3つの事前準備
(3)稲刈り当日の段取り
(4)稲刈りのコース取りと注意点
(5)稲刈りに必要な機械・道具
(6)稲刈りの時期の決め方
稲刈りは、田んぼの土づくりから丹精込めて育てたお米づくりのクライマックスの作業です。
この記事を読んで、ぜひ稲刈りへの理解を深めてください。
目次
1. 稲刈りとは黄金色に実った稲穂を刈り取る収穫作業
お米作りはは次の工程で行われます。
【お米作りの工程】
土つくり:稲刈り後の藁をすき込み腐らせて床土をつくります。
↓
播 種 :種籾を撒きます。
↓
育 苗 :苗を育てます。
↓
代掻き :田に水を入れて耕し、田植えに備えます。
↓
田植え :苗を田に移植します。
↓
田の管理:追肥・除草など稲の育成を見守ります。
↓
落 水 :稲刈りに備えて他の水を抜きます。
↓
稲刈り :黄金色に実った稲を刈り取る収穫作業です。
つまり稲刈りは、稲作の集大成ともいえる最終工程です。
落水から始まり稲刈り当日から翌日にかけて一気に行います。
作業の内容や基本用語は、次章以降で詳しく説明します。
なお、代掻きについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照ください。
また、田植えについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照ください。
2. 稲刈りの大まかな流れ
この章では、稲刈りの大まかな流れを説明します。
稲刈りには、事前準備と当日の刈り取り、収穫後の作業があります。
以降の章で、一つずつ詳しく説明します。
3. 稲刈り前に必要な3つの準備
この章では、稲刈りの事前準備について説明します。
どれも大切は内容です。
事前準備をきちんとしておかないと、稲刈り自体ができなくなることもあります。
準備1. 「落水(おとしみず)」|田の水を抜く
稲刈りの前に田の水を抜きます。
これを「落水(おとしみず)」といいます。
稲刈りの5~10日前に水を抜きます。
出穂(しゅっすい)後30日前後を目安にする場合もあります。
稲の品種や田の質により大きく変わるので一概ではありません。
なお、水を早く抜きすぎるとその後の稲の育ちが悪くなります。
胴割れ米や未成熟米が増えることになります。
一方、遅すぎると稲刈り当日まで田がぬかるんでしまいコンバインが足をとられてしまいます。
コンバインが動かなくなると一人では抜け出せないので他人の助けを借りることになります。
落水をいつにするかは、条件の近い近隣農家さんに相談するのが良いでしょう。
準備2. コンバインや乾燥機などの機械の整備をする
コンバインや乾燥機の整備をしておきましょう。
なぜなら、当日トラブルに見舞われた場合、自分一人では復旧するのが難しいからです。
まわりも一斉に稲刈りしていることが多いので、修理の人もすぐに来てくれるとは限りません。
年に一度、このシーズンしか使わないので、うまく動かない恐れもあります。
必ず事前整備はしておきましょう。
準備3. 収穫量の計画をたてる
明日、どれだけ収穫するかは、事前に決めておきましょう。
なぜなら、稲刈り後の籾はその日のうちに乾燥させる必要があるからです。
もし、何もせずに放置してしまうと、蒸れてしまい品質が著しく悪くなってしまいます。
したがって、刈り取る量はその日のうちに乾燥までできる範囲にとどめましょう。
なお、ライスセンターに持ち込む場合は、持ち込める範囲になります。
詳しくは、「4-2-2. 乾燥機がない場合|その日のうちにライスセンターに持ち込む」を参照ください。
4. 稲刈り当日の流れ
この章では、稲刈りの当日の流れを説明します。
乾燥機がある場合とない場合で異なりますので、注意しましょう。
4-1. 刈り取り作業
当日の刈り取り作業には、幾つかおさえるべきポイントがあります。
1つずつ説明します。
4-1-1. 稲刈り開始は朝露が乾いてから|11時頃が目安
稲刈りは朝露が乾いてから開始します。
11時頃が目安です。
【朝露があるとダメな理由】
(1)朝露が多いと稲が重くて刈りづらく、速度が遅くなる
(2)コンバインに負担がかかる
(3)脱穀がうまくいかず、ロスが増える
(4)乾燥に時間がかかり、燃料を多く消費する
結局、朝露が乾いてから開始した方が、早く終わり、燃費も良く、ロスが少なく、効率が良かったということになります。
4-1-2. 慣れないうちはゆっくりと進む
コンバインの操作に慣れないうちは、ゆっくり運転しましょう。
コンバインは進む速度はゆっくりでも、内部ではたくさんの刃が高速回転しています。
複雑かつ危険な機械なのです。
慣れないうちはゆっくりと進めるのが無難です。
また緊急停止の仕方も、充分にマスターしておきましょう。
4-1-3. コース取りは外周からゆっくりスタート
コース取りは、入口から入って左回りに条刈り(※)するのが基本です。
なぜなら植えたラインい沿って同じ速度で刈れば、安定して刈り取りできるからです。
(※)条刈りとは、田植えの列に沿って刈ることです。
ただコンバインはターンするのに、ある程度の幅が必要です。
そのため、ターンできる幅が確保できるまでは、外周をまわります。
3周ぐらいしてターンする幅を十分に確保できたら、往復動作に切り替えます。
できるだけ条刈りできるようコース取りしましょう。
なお、斜めに刈ると稲の量が変動して、トラブルが起きやすいです。
無理をしないでおきましょう。
4-1-4. 途中排出の場所も決めておく
排出作業をする場所もあらかじめ決めておきましょう。
グレンタンクつきのコンバインなら接道しているところの軽トラを待機させます。
満杯になる前に移しましょう。
袋取りタイプのコンバインの場合は、持ち運びがしやすいポイントを決めておきましょう。
満タンになった袋はとても重いので、できるだけ持ち運びの距離を短くできるようにしましょう。
4-2. 乾燥|籾に含まれる水分を減らす
乾燥とは、籾に含まれる水分を減らす工程です。
次工程の籾摺りの能率上げるためや、お米の貯蔵性をよくするために行われます。
刈り取りが済んだらすぐに乾燥機のある場所に移動させます。
4-2-1. 乾燥機がある場合|その日のうちに乾燥機へ
乾燥機がある場合は、その日のうちに乾燥機に入れます。
希望する仕上水分(%)を設定し、運転を開始します。
なお、乾燥には一晩かかります。
4-2-2. 乾燥機がない場合|その日のうちにライスセンターに持ち込む
乾燥機がない場合は、ライスセンターに持ち込みます。
【ライスセンターとは】
ライスセンターとは、乾燥や籾摺りなどをまとめてしてくれる共同施設です。
乾燥機や籾摺り機を持っていない場合、こちらの施設を利用します。
搬入日、品種名、状態、農薬情報などを報告する必要があります。
事前予約制のところが多く、受け入れ量にも限度があるので早めに申込みましょう。
5. 稲刈りの翌日の流れ
この章では、稲かりの翌日の流れを説明します。
「乾燥機がある場合」と「乾燥機がない場合」で異なります。
まずは「乾燥機がある場合」の流れを説明します。
5-1. 「籾摺り(もみすり)」|籾から籾殻(もみがら)を除いてい玄米にする
「籾摺り(もみすり)」とは、籾から籾殻(もみがら)を除いて玄米にする作業です。
乾燥機から取り出した籾を籾摺り機に入れ、高速にもみ殻を取り除いていきます。
籾摺り機で籾殻を取り除かれた玄米は、次に「選別」という工程にかけられます。
5-2. 選別|質の良い玄米を選り分ける
選別とは、質の良い玄米とくず米をわける作業です。
「籾摺り」と「選別」をあわせて、「調整」と呼ぶ場合もあります。
選別によって選り分けられた良質の玄米だけが、次の袋詰めの工程に進みます。
5-3. 袋詰め
続いて袋詰め作業に移ります。
選別された玄米が勢いよく出てきます。
重さを量りながら袋に詰めていきます。
一つずつ丁寧に封をしていきます。
ここまでくればほぼ完了です。
お疲れさまでした。
ちょっと一休み|籾殻で焼き芋を焼いてみました
籾殻で焼き芋を焼いてみました。
じっくりと焼きあがります。
農業ならではですね。
5-4. 乾燥機がないない場合|ライスセンターから回収~そのまま出荷できるところもある
乾燥機がなくライスセンターに持ち込んだ場合、玄米が個別に袋詰めされた状態で受け取ります。
ライスセンターによっては、そのまま出荷できるころもあります。
事前に確認しておきましょう。
6. 稲刈りに必要な機械・道具
この章では、稲刈りに必要な機械・道具を説明します。
6-1. コンバイン
稲刈りの主な機械として、コンバインがあります。
コンバインは、「刈り取り」「脱穀」「風選」を同時におこなっています。
脱穀(だっこく)とは、稲穂の先から籾を取り外す作業です。
風選(ふうせん)とは、ファンで起こした風の力で、籾と藁くずを選別する作業です。
グレンタンクという籾をため込むタンクがあるタイプと無いタイプがあります。
それぞれのメリットデメリットは次のとおりです。
6-1-1. グレンタンクがあるタイプ
【メリット】
・田んぼでは手がかからず、量が多くても楽に稲刈りできる
【デメリット】
・田んぼが接道していないと使えない
6-1-2. グレンタンクが無いタイプ
【メリット】
・接道していなくても、その場で袋詰めしていくので小分けの対応ができる
・袋がある限り稲刈りを続けられる
・袋の口を開けることで籾が蒸れるのを防げる
【デメリット】
・手で運ばなけらばならない
・量が多いほど重労働になる
6-2. バインダー
刈り取るだけの機械として、バインダーがあります。
刈り取るだけですので、続いて脱穀などの作業が必要です。
6-3. 鎌
コンバインで届かないところは手刈りになるので、鎌が必要です。
角地も手刈りをお勧めします。
なぜなら角地をコンバインで刈ろうと行ったり来たりしていると、地面を深く掘ってしまい、はまり込んでいしまう恐れがあるからです。
またコンバインで届く場所であってもジグザグしないと刈れない場合は、手刈りしてしまう方が早い場合があります。
なお、手刈りが面倒な人は、田植えの時に畔から15~20cmほどを開けておくとよいでしょう。
田植えに関して詳しく知りたい方は、下記の記事を参照ください。
6-4. 専用機械がなかった頃|稲刈りの今昔
江戸時代
江戸時代は、すべて人の手でやっていました。
鎌を手に稲を刈り、はざにかけて乾燥させていました。
籾摺りも、うすを回してすり落としていました。
昭和30~40年代
コンバインが普及するまでは、昔ながらに手で稲刈りをしていました。
乾燥も、天日干しをしていました。
天日干しのことを、「小田掛け(おだがけ)」と呼びます。
地方によっては、「稲掛け(いねかけ)」や「稲架掛け(はさがけ)」と呼ぶこともあります。
脱穀も専用機で行っていました。
平成元年~
コンバインが普及してからは、稲刈りから脱穀、風選まで同時にできるようになりました。
機械の進歩により大幅な省力化がなされました。
7. 稲刈りの時期と日程の決め方
この章では、稲刈りの時期と日程の決め方について説明します。
稲刈りの適期は、主に次の3つの基準で判断します。
(1)黄色い籾(もみ)の占める割合が85~90%になる
(2)出穂(しゅっすい)から40~50日経過する
(3)出穂からの積算温度が1000~1250℃になる
品種によって幅はありますが、概ねこの3つの基準で決まります。
稲刈りの適期がわかれば、それにあわせて実際の日取りを決めることになります。
日取りを決める際の優先順位は、次で判断する方が多いようです。
(1)品質・収量重視|品質を優先するなら最適期に収穫する、収量を優先するなら最適期より少し遅めに収穫する
(2)天候事情重視|台風が襲来する前に収穫する
(3)個人事情重視|コンバインの順番待ちや会社の休みとの兼ね合いなどで決める
稲刈りの時期と日程の決め方について、詳しく知りたい方は次の記事を参照ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では次のことを説明しました。
(1)稲刈りの大まかな流れ
(2)稲刈りの事前準備で気を付けること
(3)稲刈り当日の段取り
(4)稲刈りのコース取りと注意点
(5)稲刈りに必要な機械・道具
(6)稲刈りの時期の決め方
稲刈りは、ただ刈り取るだけでなく、様々な工程があることがおわかり頂けたかと思います。
また、代掻きや田植えの仕方が、稲刈りの良し悪しに影響することもあります。
一つ一つ大切な工程ですので、慎重にかつ確実に進めていってください。
あなたの農地・農業のお困りごとの解決の一助になれば幸いです。
代掻きについて詳しく知りたい方はこちら
田植えについて詳しく知りたい方はこちら