栽培歴40年の原木しいたけ職人が語る栽培方法と美味しい食べ方

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「しいたけ嫌いな子、手を挙げて!」と子供たちにたずねたら、きっとたくさんの子が手を挙げることでしょう。

なにしろ、しいたけは子供が嫌いな食べ物ランキングの常連客ですから。

でもその質問、ちょっと間違っているかもしれません。
なぜなら、子供たちはいつも食べているのは、「菌床しいたけ」かもしれないからです。

一般に流通しているしいたけのおよそ9割が「菌床しいたけ」とよばれるものです。

世の中にはもう一つしいたけが存在します。
それは「原木しいたけ」です。
「菌床しいたけ」とは味も香りも食感も異なるものです。

もし、子供のしいたけ嫌いをなんとかしたいとお考えなら。
あるいは、晩御飯のおかずに新メニューをお探しなら。

一度「原木しいたけ」をご賞味してみてください。
きっと今までの「しいたけ観」がガラッと変わるはずです。

この記事では、その「原木しいたけ」の魅力を、栽培歴40年のプロ職人のお話をもとにご紹介します。

 

1. 「原木しいたけ」とは?

この章では「原木しいたけ」の特徴や「菌床しいたけ」との違いを簡単にご説明します。

もとは同じ菌なのに、なぜ違いが出るのでしょうか。

1-1. 「原木しいたけ」の特徴

「原木しいたけ」とは、伐採した木で栽培したしいたけのことです。

菌の種類が特別だからではなく、原木で育てるからそう呼ぶのです。

ちなみに菌には「夏菌」と「冬菌」があります。
それぞれ収穫時期が異なっています。

1-2. 「原木しいたけ」と「菌床しいたけ」の違いは栽培方法にある

「原木しいたけ」と「菌床しいたけ」の違いは栽培方法にあります。

もとは同じ菌です。
しいたけが育つベッドや栽培環境が違うことで、大きな違いができてくるのです。

 

菌床しいたけ画像1

【菌床しいたけ】おがくず、栄養剤、水を混ぜ合わせて固めたブロックに菌を打ち込んで栽培します。だいたい3~4ヶ月で出荷できる状態に育ちます。

 

原木しいたけ画像2

 

1-3. スーパーで売っているしいたけのほとんどが「菌床しいたけ」です

菌床しいたけパック画像

下の表は「原木しいたけ」と「菌床しいたけ」のおおよその流通比率です。

生産量 流通比率
原木しいたけ 7,437トン 9.9%
菌床しいたけ 67,510トン 90.1%

独立行政法人農畜産業振興機構HP2016年データ

「菌床しいたけ」は、栽培サイクルが短く、天候にも左右されず、年中出荷できることから流通しやすいです。

一方「原木しいたけ」は、原木の量が限られ、手間もかかり、夏と冬しか出荷できないことから、大量生産できません。
そのため流通量では「菌床しいたけ」に圧倒されています。

結果、スーパーに並んでいるしいたけのおよそ9割が「菌床しいたけ」です。

一般消費者は決して2択で「菌床しいたけ」を選んでいるのではありません。
「菌床しいたけ」しか店頭に並んでいないのです。

「菌床しいたけ」しかないと思われても仕方がないでしょう。

 

2. 「原木しいたけ」の美味しい食べ方

この章では、「原木しいたけ」の美味しい食べ方をご紹介します。

数や価格では「菌床しいたけ」に圧倒されています。
それでも栽培が続けられているのは、その美味しさ故でしょう。

2-1. 栽培歴40年のプロによると「塩焼き」こそが一番美味しい

栽培歴40年のプロ職人によると、「原木しいたけ」の本当の味を楽しむには塩焼きが一番です。

例え話ですが、ラーメン屋の味を盗もうとするならどうしたらよいか?
それには「その店の塩ラーメンを食べてみるべし」というのと同じ理屈です。

味付けをギリギリまで減らすと、本当の味が見えてきます。

そこで、実際に調理してみました。

 

石づきを切ります

原木しいたけの石焼1

 

軽く水洗いして、塩をパラパラとふります

原木しいたけの石焼2

 

オーブントースターに並べます

原木しいたけの石焼3

 

タイマーで5~7分です

原木しいたけの石焼4

 

水滴が浮かんできたら出来上がり

原木しいたけの石焼5

 

焼きたてはマシュマロのようにふんわりとして、とても美味です。

原木しいたけの石焼6

簡単ですので、今晩の追加の一品にどうぞ。

 

2-2. もしバーベキューを企画中なら、是非ラインナップに加えてください

原木しいたけのバーベキュー

もしバーベキューを企画中なら、ぜひラインナップに加えてください。

お肉を買う予算を少し分けて「原木しいたけ」にまわしませんか?

屋外で食べると、なお一層美味しく感じることでしょう。

 

2-3. 植菌イベントでは、しいたけ嫌いの子もワイワイと食べてくれました

時々、近くの小学校から子供たちが栽培風景の社会見学にやってきます。

小学生見学会

 

地域の方々に向けて、植菌イベント(木に菌を植え付ける体験イベント)も実施されます。

植菌イベント

 

イベント後は、みんなに試食してもらいます。

食べる前に子供たちに「しいたけ嫌いな子、手を挙げて!」とたずねると、やっぱり手を挙げます。
栽培歴40年の農家さんを前にしても、遠慮も気遣いもありません。。。

でも、一口食べると「美味しい!」と言ってくれます。

そして今度は「しいたけ好きな子、手を挙げて!」とたずねると、「はい!」と元気よく手を挙げくれます。

農家さんもニッコリです。

 

3. 「原木しいたけ」はどのようにして作られるか

この章では、原木しいたけの栽培風景をご紹介します。

3-1. 「原木しいたけ」の具体的な栽培風景

原木が遠路はるばるやってきました。

原木の納品

 

無事、納品完了です。

原木納品完了

 

原木にドリルで穴をあけます。

原木の穴開け

 

菌を植え付けます。

植菌行程

 

ロウで蓋をします。

ロウで蓋をする工程

 

菌が活着するまで、横に寝かせます。

原木を寝かせる

 

菌が広がっていくよう、ほだ木を縦にしたり上下反転させたりします。

原木を上下反転

 

ソーラーシェアリングの下でもしいたけは育っています。
ソーラーシェアリングについてはこちら

しいたけの発生

 

収穫です。

収穫

 

3-2. 実は植菌(木に菌を植えること)は全自動でできるんです

菌を植えることを植菌といいます。

これが大変な作業です。

ドリルで穴をあけて、菌を植え付けて、ロウで蓋をする作業です。
1本あたり36~48個も穴をあけて植菌します。

2万本栽培していた時は、6~7人が4か月がかりで植菌していました。

それも今は昔、現在は植菌専用の機械を使用しています。

原木しいたけの植菌機

 

 

これがなかなかの優れものです。

6本のドリルが小気味よく穴をあけ、菌を打ち込んでいきます。

動画がありますのでご覧ください。

 

3-3. 原木に刺激を与えると良く育つ

原木に刺激を与えると良く育つそうです。

刺激には、水、温度、衝撃などがあります。

地下水などの冷たい水に原木を浸したりします。
ハンマーで衝撃を与えることもあります。

ちなみに、大分県では山中に原木を並べる自然栽培が盛んにおこなわれています。
雷が多い年は良く育つそうです。

雷のイメージ画像

 

3-4. 栽培キットも販売されています

原木しいたけの栽培キットも栽培されています。

すでに植菌された状態で出荷されますので、すぐに栽培を始められます。

水に浸けて刺激を与え、日陰において寒冷紗をかけるなどして育てます。

詳しくは、栽培キットに添付されている説明書を参照してください。

 

4. 「原木しいたけ」はどんどん希少化しています

原木しいたけの生産は、実はどんどん減っています。

先が危ぶまれているのです。

4-1. 木こり不足により原木の入手が年々困難になっています

山の荒廃

木こりの人数が年々減少しています。

下のグラフは総務省「国勢調査」の林業従事者の推移です。
人数減少と高齢化が見て取れると思います。

林業従事者数の推移

山を管理する人も減少しています。

 

4-2. 原木高騰により採算があわず栽培農家も減少の一途を辿っています

こちらは原木しいたけを栽培するために使用する「ほだ木」の1本あたりの価格の推移です。

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
なら 247円 254円 262円 296円 297円
くぬぎ 264円 266円 296円 311円 305円

林野庁 特用林産物生産統計調査(2018年度)

年々上昇しているのがわかります。

木こりが減少し、原木が手に入りにくくなっているので、価格も高騰しています。

 

そしてこちらは原木しいたけ生産農家の戸数の推移です。

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年
戸数 24,676戸 22,893戸 19,857戸 19,356戸 18,696戸

農林水産統計(2018年度版)より

年々減少していることがおわかり頂けると思います。

手作業で植菌するのはとても大変で、コストがかかるのです。
原木を並べるのも重労働ですし。

今回ご紹介した農家さんは植菌の機械があり、大量に栽培できるので続けていられるのが現状です。
もし機械が故障し使えなくなったら、続けるのは難しいかもしれません。

ですので、市場からどんどん原木しいたけが消えていってます。

ますます希少化しているのが現状です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

この記事では、その「原木しいたけ」の魅力を、栽培歴40年のプロ職人のお話をもとにご紹介しました。

今ではしいたけの販売の際、「原木」か「菌床」かを明記することが義務付けられています。
もし、道の駅や産地直売所で「原木」という文字を見つけたら、是非一度食べてみてください。

きっとあなたの「しいたけ観」が変わるかもしれません。

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